わが党の政策ビジョンと平成24年度予算

 

はじめに

 民主党が政権を担当して2年半が経過したが、この間、日本経済はさらに低迷し、社会の閉塞感は一層強まるばかりである。もはやこれ以上、政権担当能力の無い民主党政権にわが国を委ねることは許されない。

 平成24年度予算について、わが党は、政権交代を果たし、作り直していくとの立場に立つとともに、日本人の「絆」、地域の「絆」を守り、強化する新しい国造りの第一歩と位置付けるべきとの考えの下、昨年12月16日に「平成24年度予算に関するわが党の基本的考え方」を公表し、平成24年度予算の政府案が発表される前に、税制改正を含めた予算編成のあるべき方向を明らかにした。

 日本の再生のために今求められていることは、わが国が抱える課題に対する基本的な考え方を明らかにし、課題の解決に向けて具体的な政策を果敢に実現していくことである。ここに、円高・デフレ対策、震災復興、国土の強靭化、社会保障制度改革、力強い日本農林水産業の振興等の重要政策について、わが党の考えを示すとともに、平成24年度予算案の問題点と見直すべきポイントを指摘する。

Ⅰ.大震災からの迅速かつ本格的な復興と将来のエネルギー政策のあり方

1.大震災からの迅速かつ本格的な復興について

 東日本大震災の復旧・復興のために、数次にわたる補正予算がわが党などの賛成により既に成立しているが、この予算を執行する民主党政権の不手際により、ガレキ処理や道路・鉄道等の生活インフラの復旧などは一向に進まず、発災から一年を迎えようという今日に至っても、被災者の生活再建、被災地の復興への展望は未だ開けない状況が続いている。

 わが党は、これまでのような「後手後手」の轍を二度と踏まないためにも、2月10日に創設された「復興庁」が総合調整に止まらず、与えられた権限を十二分に発揮し、被災地の実情に即して迅速かつ十分な対応を行うべきと考える。

 平成24年度予算においては、「復興」を着実な軌道に乗せるため、以下の対応を行う。

① 被災地域全体における除染(土壌、家屋等の除染の集中実施、海底土の除染の推進等)及びガレキ処理の早期完了

② 被災者生活再建支援(既存ローンを抱えながらも住宅建設を希望する被災者に対する柔軟な新規融資等)

③ 原発事故による医療費及び継続的検査体制の強化(特に子どもへの対応)

④ 事業再建支援(中小企業・小規模事業者や農林漁業者の事業再建に向けた二重ローン対策や資金繰り対策、企業グループに対する補助金制度の一層の充実等)

⑤ 原発事故による風評被害対策の充実

⑥ 被災地の社会資本整備(寸断された道路、鉄道、防潮堤、河川堤防、さらには農地、漁港などの整備、下水汚泥の処理のための体制構築等)

 また、復興の規模については、政府は、平成27年度末までの5年間の復興集中期間で19兆円程度、32年度末までで23兆円程度と見込んでいる。しかし、「平成23年度第三次補正予算正すべきポイント(11月2日)」で指摘したように、23年度の補正予算計上分に加え、24年度での対応を考えると、復興に必要な枠はほとんど残らないこととなる。これでは本格的な復興はもとより、後述するように国土強靭化のための全国防災への対応も到底覚束ない。復旧・復興事業については必要な予算を全力で確保すべきである。

 2.将来のエネルギー政策のあり方について

 東日本大震災に伴う福島原発の事故は、周辺住民の方々だけでなく、国民生活や産業活動に多大な影響を与え、放射能の脅威を改めて示した。原子力の安全神話に過度に依拠し、使用済み核燃料廃棄物及び高レベル放射性廃棄物処理の解決の目処が立ってないままにこれまでのエネルギー政策を推進してきたことにつき、わが党としてまず深く反省をしなければならない。

 現在の状況を踏まえると、原発の新規立地が事実上困難となっているが、エネルギー政策の見直しに際しては、経済と環境の両立を前提として、①再生可能エネルギーをはじめとするエネルギー源の多様化、②エネルギー供給の安定性と危機管理、③原発政策の方向性の3点が重要なポイントである。今後、過去の政策及び原子力技術の検証を行う中で、わが国エネルギーの基本政策、特に将来の需給構造のあり方、電源構成のベストミックスについて具体像の取りまとめを行う。 

 Ⅱ.日本新生へのわが党の政策ビジョン

1.デフレ・円高からの脱却と「投資立国」を目指した強い国家へ

  デフレからの早期脱却を目指し、実質3%、名目4%(GNIベース)の成長を巡航速度とする。繁栄への道を切り拓くため、海外の経済成長を国内雇用の維持・発展に取り込む国内外の環境変動に強い新たな国家経済モデル、すなわち「貿易立国」であり「投資立国」でもある双発型のエンジンを持つ強い国家を創る。

 雇用の創出と持続的成長を実現するため、財政健全化の着実な進展を世界に発信するとともに、デフレ・円高からの脱却に向けて欧米先進国並みの物価目標(2%程度)を政府・日銀のアコード(協定)で定めるとともに、日銀の国債管理政策への協調などにより大胆な金融緩和策を断行する。同時に、東日本大震災被災地復興事業や国土全体の強靱化事業などを起爆剤として民需主導による有効需要の創出を図るとともに、大胆かつきめ細かい成長戦略を強力にかつスピード感を持って推進することにより、日本経済を持続的な成長軌道に乗せる。

 具体的には、本社・研究部門、マザー工場などの「世界のヘッドクォーター機能」の立地が促進される環境を整備する。また、将来の市場拡大が期待され、国際競争にしのぎを削る分野について、産学官の協調体制を築いた上で、財政のみならず税制・財投を含めた支援を集中投入する新ターゲティングポリシーを大胆に遂行する。また、長引く需給ギャップを解消するためには供給サイドの統合・再編が不可欠であることから、再編を促進する思い切った投資減税等を実施する。

 こうした真に必要な政策を推進していくためにも、安心社会実現に向けた税制抜本改革により財政の対応力を回復させ、硬直化した財政構造を転換する。 

2.持続可能な財政の確立へ

  ギリシャを端緒とし、イタリア、スペインなどにも及んだ財政危機は、決してよそ事ではなく、国際金融市場においては各国の財政赤字の動向が注目されている。財政危機は、単に財政の問題にとどまらず、金融市場や金融機関の経営、さらには、経済、国民生活にも甚大な影響を及ぼす問題である。

 わが党は、「財政健全化責任法案」の提出をはじめ財政健全化に向けての具体的な取組みを強く主導してきた。また、2010年の参議院選挙公約では、社会保障を支えるための消費税率10%を明記した。

 しかし、後述するように、政府・民主党は、平成24年度予算案において、中期財政フレームで示した目標をあたかも達成できたように粉飾し、3年連続の「放漫予算」となった。さらに、政府・与党が想定しているように消費税の引き上げを行っても、2015年度における基礎的財政収支赤字(対GDP比)を2010年度水準の半分にするとの財政健全化目標の実現も厳しいものになりつつある。

 財政運営戦略(平成22年6月22日閣議決定)においても「財政健全化への取組は正直であることを第一とし、国の会計間の資金移転、赤字の付け替え等に依存した財政運営は厳に慎む。」としているように、正直に真実を語ることが、財政健全化に向けて厳しい道のりを国民とともに歩むための大前提である。

 円高・デフレなどの経済問題の克服による景気や雇用の回復、さらには経済成長に全力で取り組むとともに、国会議員の定数削減、公務員の人件費削減をはじめとした徹底した歳出削減に努めつつ、消費税を含む税制抜本改革の実施により、持続可能な財政の確立を目指す。

 3.徹底した行財政改革

  わが党は、行財政改革に果敢に取り組んできた。例えば、国家公務員の削減に関しては、10年で国家公務員を20%(81,000人)純減する計画を平成17年に決定し、その後4年間で約45,000人の純減を達成した。今後、わが国財政の危機的状況を克服していくために、国家公務員の純減を可能な限り前倒しするなどにより、国・地方公務員(国:約30万人、地方:約240万人)の人件費を削減し、国費ベースで1兆5,000億円のスリム化を行う。

 また、無駄遣いの撲滅については、平成21年度予算において徹底した支出の見直しを行い、広報経費・委託調査費や公益法人への支出について約3~4割削減したほか、政策の棚卸しにより一般会計約5,500億円、特別会計約3,300億円を削減した。引き続き、無駄遣いの撲滅に向け、不断の努力を行い、効果や優先順位、適正規模等の視点から個々の政策をゼロベースで総点検することにより、合計で約5,000億円程度の見直しを行う。

 4.自助・自立を基本とした安心できる社会保障制度の構築へ

  国民は、将来の安心のためにも、持続可能な社会保障制度の確立を強く求めている。わが国の社会保障費は、高齢化や医療技術の進歩などに伴い年々増加し、今後、さらに増大するとともに、社会保障の必要性が多様化することも予想される。わが国の社会・経済の現状や将来の姿を見据え、以下の基本的な考え方に立って、負担が特に増大することとなる若い世代をはじめ国民全体の理解を得る中で、持続可能な形へ受益と負担の両面にわたり必要な見直しを行う。

(1) 額に汗して働き、税金や社会保険料などを納め、また納めようという意思を持つ人々が報われること。また、不正に申告した者が不当に利益を受け、正直者が損をすることのないようにすることを原点とする。

(2) 「自助」、「自立」を第一とし、「共助」、さらには「公助」の順に従って政策を組み合わせ、安易なバラマキの道は排し、負担の増大を極力抑制する中で、真に必要とされる社会保障の提供を目指す。

(3) 家族の助合い、すなわち「家族の力」の強化により「自助」を大事にする方向を目指す。また、自発的な意思に基づく「共助」を大事にし、その力が十分に発揮され得る社会を構築する。

(4) 我が国の社会保障は、社会保険制度を引き続き基本として、必要な是正を行う。公費負担は、保険料負担の適正化や低所得者対策などに限定的に充当する。

〔年金〕 現行の年金制度を基に、無年金・低年金対策、被用者年金の一元化など必要な是正を行う。民主党の主張する年金方式は、未だ全体像が示されていないが、さらに巨額な財源が必要であり、自営業者の保険料が大幅に増加する等、問題点があまりに多く現実的な選択肢とは考え難い。さらに、保険料を負担しなくても年金を満額もらえるということは、努力する人が報われるという考えとは相いれないものがあり、撤回を求める。

〔医療〕 長寿化の進展、高額医療機器や高度医療の進歩等、今後医療費の増大が不可避な中で、国民皆保険を守ることを基本に、患者の尊厳を保ちつつ、医療費の配分の重点化・効率化などを進め、医療の充実を図る。

〔介護〕 介護サービスへの需要増大に対処するため、介護サービスの効率化・向上を進めるとともに、保険料負担増大の抑制を含め安定的な財政基盤を確立し、介護の充実を図る。

〔少子化対策〕 これまでの少子化対策に止まらず、家族を幅広く支える家族支援政策を積極的に進める。子供に対する現金給付は、所得制限を含め児童手当制度を基本に見直すとともに、待機児童問題の解消、幼児教育の無償化、保育制度の充実など現物給付の充実を第一に取り組む。

 政府・与党が進めようとしている『子ども・子育て新システム』は、待機児童解消が期待できず、制度が一層複雑化するなどの問題に加え、保育の質の低下や保護者の負担増を引き起こしかねない保育の産業化の方向に向かうものであり、わが党の考えとは相いれない。

〔生活保護〕 経済の低迷等により、受給者が急増している生活保護は、最後の安全網としての機能は確保しつつも、「手当より仕事」を基本に不正受給により厳格に対処するとともに、就労の一層の促進、現金給付から現物給付(住宅確保、食料回数券の活用等)への移行、医療扶助の適正化など必要な見直しを行い、少なくとも平成24年度政府予算案の約2兆8千億円を平成22年度当初予算の水準(2兆2,006億円)程度に抑制することなどにより、国費ベースで8,000億円を減額する。 

5.日本を強くしなやかな国へ(「国土の強靭化」)

  東日本大震災や相次ぐ台風被害等でわが国土の脆弱性が露呈し、防災面だけでなく、政治・経済・文化・社会のあらゆる面の見直しを強いられている。

 そこで、このような大震災等により、多くの国民が貴い生命を奪われるとともに、国土に破滅的な被害が生じ、その復旧・復興に巨額な支出を余儀なくされることを甘受する(=「事後復興」の考え方)のではなく、事後復興に必要な額よりもはるかに少ない額で計画的かつ賢明な投資を行い大震災等の被害の額を大幅に縮減する「国土の強靭化」を全国レベルで行うこと(=「事前復興」の考え方)を国家の最優先課題と位置付け、人的・物的被害を最小限に抑えるべきである。

 この「国土の強靭化」には、ハード・ソフトにわたる非常に広範な取り組みが含まれる。巨大な地震や津波の直接的被害から国民の生命・身体・財産を守るためのハード・ソフトの組合せはもちろん、例えば、つながらない携帯、交通インフラの水没、孤立した集落、学校・病院の倒壊、使えない水道・ガスなどの教訓を最大限活かして、発災直後からの人命救助や国民生活や経済活動の復旧・復興のために必要不可欠な、十全な通信・輸送・教育、医療・ライフラインなどの機能を確保するためのハード・ソフトの組合せ、さらには、発災後当分の間の国全体の国民生活や経済活動のバックアップ機能の確保などが含まれる。これらの内容を実現するため、「国土強靭化基本法(仮称)」とともに、同法に基づく関連省庁所管の「国土強靭化関連施設整備促進法(仮称)」を制定する。

 さらに、ハード・ソフト両面で災害に粘り強い国・都市・街をつくり、バックアップ機能を強化した国土を形成するために「国土強靭化」を予算の根本に据え、近い将来発生することが予想されるわが国を襲う巨大地震・津波などに十分耐え、なおかつすぐに回復できる、国家国民を守る強くしなやかな国土をつくりあげる。

 わが党は、「コンクリートから人へ」などの今の政府の不適切な政策を正しつつ、「国土の強靭化」に集中的に取り組んでいく。このため、見通しの甘さが明らかな政府の復興計画及び全国防災施策を全面的に見直す。 

Ⅲ.平成24年度予算政府案の問題点とわが党の考え方

〔総論〕

1.見せかけだけの“粉飾”予算

  平成24年度一般会計予算の規模は90.3兆円であり、この点については政府・民主党は、前年度比で6年ぶりに「減になった」と高い評価をしている。さらに、「中期財政フレーム」(平成23年(8月12日閣議決定)に基づき、歳出の大枠約68.4兆円、新規国債発行額約44兆円を堅持したとも謳っている。

 我々は「平成23年度第4次補正予算の問題点」で、同4次補正において本来24年度当初予算に計上すべき項目が含まれている点を指摘したが、補正予算にまわすことにより、当初予算の規模を表向き小さく見せようとしている。

 さらに、基礎年金の国庫負担割合2分の1への引き上げの財源について、税制抜本改革により確保される財源を充てて償還される「年金交付国債」(2.6兆円)に求め、あたかも「別枠」の予算のように偽っている。まさに平成24年度予算は“粉飾”予算であり、国民の目を欺くものである。

 我々は、消費税増税の動向如何で先行きが不透明な交付国債をいわば担保に年金積立金の取崩しで賄うことは年金財政の安定破綻につながり、認めるわけにはいかない。一般会計において、将来における償還財源を明確にした上で特例公債(赤字国債)を発行して財源を確保すべきである。 

2.マニフェスト“破綻”予算

  民主党マニフェストが総崩れになっていることは論を待たない。昨年の8月に民主党はマニフェストの中間検証を行い、「マニフェスト作成時に予測できなかった事態で大きな影響を受けている」「政策の必要性や実現可能性について検討・検証が不十分であった」など、事実上の‘破綻’宣言を行う事態となっている。

 平成24年度予算において、この‘破綻’はさらに明確となっている。やらないと言っていた消費税の増税は声高に主張する一方で、無駄の削減と予算の組替えで財源を捻出するとの約束は忘れさり、後期高齢者医療制度の廃止や国家公務員人件費の二割削減はすべて先送りである。

 いずれにしても、国民に対する具体的な説明や謝罪が全く行われないことは、無責任であると言わざるを得ない。 

3.三党合意(バラマキ政策見直し)“違反”の予算

  我々は、民主党の看板政策である「子ども手当」「高校授業料無償化」「農業者戸別所得補償制度」「高速道路無料化」のバラマキ4K政策については、かねてより一貫して撤回を求めてきた。これは、財政面はもちろんのこと、国民のニーズから見てもより効果的な政策に転換すべきであるとの考えからであった。わが党が粘り強く協議した結果、昨年の8月になって、それらの政策の見直しについて、自民党、民主党、公明党の三党合意がなされたところである。

 しかしながら、「子ども手当」については、検討事項とされていた「手当の名称」が、略せば「子ども手当」となるような法案が提出された。また、所得制限の影響緩和についても、年少扶養控除を含め検討事項とされていたが、何の説明もなく年収960万円以上の世帯に5,000円を支給するとしてきた。これらは明らかに三党合意を無視するものである。

 一方、「高校授業料無償化」と「農業者戸別所得補償制度」については、「政策効果の検証を基に、必要な見直しを検討する。なお、これらを含めた歳出の見直しについて、11年度における歳出の削減を前提に、11年度第3次補正予算ならびに12年度予算の編成プロセスなどに当たり、誠実に対処することを確認する。」とされていたが、「高校授業料無償化」については、まったく見直し作業が行われないまま予算に計上された。わが党は民主党の不誠実な対応を予算委員会で厳しく追及し、民主党は謝罪のうえ、高校授業料無償化の政策効果の検証を行い、必要に応じ平成24年度予算に反映するとの新たな三党合意を結んだ。「農業者戸別所得補償制度」については、民主党から示されたものは決して検証と呼べるものではなく、また、時間的にも平成24年度予算に反映できるものではなかった。

 政治の要諦は「信頼」であることは言うまでもない。民主党の対応は公党間の信頼をことごとく裏切る行為であり、内閣支持率の低下に見られるように、そのまま国民の信頼低下につながっていることは明らかである。 

〔各論〕

1.日本経済再生関係予算

  まずは、政府の経済見通しのブレを指摘せざるを得ない。政府の24年度の経済成長率は名目2%、実質2.2%としているが、昨年8月の段階では名目2.8%、実質2.9%としていたはずであるが、これまでの稚拙な経済・財政運営の結果、下方修正せざるをえなくなった。

 今回の予算案でも、具体的な成長戦略に裏付けされた予算項目は見受けられず、これまでの姿勢の延長線であり、今後の展望を拓くものではない。

 日本経済を持続可能な成長軌道に乗せ、国民生活の基礎である雇用を安定させるためには、大胆かつきめ細かい成長戦略に立って予算を投入すべきである。

 例えば、世界の頭脳を日本に集めるための研究環境・生活環境や、国際競争力を持ち海外展開する企業が世界中で大きく稼ぎ、その富を日本に還元し、新たな事業と雇用を生み出せる環境を整備する。また、中小企業のサプライチェーンを維持するため、これまでにない大胆な政策をパッケージで提示するとともに、その実施を図る。強固なエネルギー供給体制の確立や資源確保戦略の推進を国家プロジェクトで行うことも重要なことは言うまでもない。

 さらに、戦略的な研究開発の推進、医療・エネルギー・コンテンツ等の「グローバルトップ特区」の創設、国際標準化の推進などにより、イノベーションを一層強化・加速させることも急がれる。 

2.中小・小規模事業者対策予算

  東日本大震災の被災地における産業復興だけではなく、全国的規模でも中小・小規模事業者への対策を強化する観点から、資金繰り対策とともに、新製品や新たな技術の開発などを促進し、円高等に負けない足腰の強い経営体制を強化していくために、中小企業関係予算を政府案よりも約300億円程度の増額が必要である。

 3.農林水産業の振興関係予算

  平成24年度予算政府案は、美しい国土づくりに不可欠な農業農村基盤整備などを怠るとともに、「自助」を前提としない「農業者戸別所得補償制度」は米価の低落を招来するとともに、米(=水田農業)など土地利用型農業偏重で、地域の特性を無視した全国一律単価の採用により多様性豊かな農業の展開を著しく困難にしている。さらに被災地の食料生産の復旧・復興への配慮も十分とは言えない。

 このような誤りを正すため、わが党としては、農業予算総額を大幅に増やしつつ、農家の所得は、「減らさないこと」はもちろん「増やすこと」を基本として、自助を前提に、頑張る農家に報いる農政、地域の絆を強める農政の実現を目指す。

 この考え方に基づき、「農業生産者を支える政策」「農業地域を元気にする政策」「農業用地を確保する政策」を基本に以下の具体的な政策を実施する。

 1つは、地域の実態に応じた経営体(複合経営体を含む)を育成し、それらの多様な担い手が大宗を占め取組みを進める。農業者戸別所得補償制度の固定部分は、農地を農地として維持することに対し対価を支払う直接支払制度に振り替え金額も約3,500億円に拡充する。変動部分は、農家の拠出を伴う収入減少影響緩和対策に振り替え拡充を図る。

 2つは、地域の実態を踏まえた多様な担い手を育成・確保するため、地域の特性を踏まえた支援の単価の設定などを通して、大豆など食料自給率向上に資する作物もしっかりと応援する。そのために、経営移譲円滑化制度の創設なども含む担い手新法を制定する(予算額約500億円)など農業者を支える政策を打つ。

 3つは、中山間地域等直接支払制度や農地・水保全管理支払交付金・環境保全型農業直接支援対策などを取り込んで、平場農地も含む土地利用型作物に限らない日本型直接支払制度を創設する多面的機能直接支払法を制定するなど農業地域を元気にする政策を打つ(約3,500億円(再掲))。

 4つは、農地の転用規制を厳格化するとともに、農業生産基盤の維持・向上のための農業農村整備事業や地域の実態に合った農地集積加速化事業を復活するなど、規模拡大のために期限付きの目標を掲げて大胆な優良な農業用地を確保する政策を打つ(約6,400億円)。

 畜産・酪農についても、地域の特性を無視した全国一律単価の採用などにより多様性豊かな展開を著しく困難にしている現行制度を見直し拡充する。

 林業については、災害対策に資する治山事業の拡充や林業経営の基盤強化、さらに、路網整備や機械整備のための森林整備加速化・林業再生事業など約1,600億円の増額を行う。

 水産関係については、東日本大震災からの復興は言うに及ばず、わが国周辺水域・内水面の資源状況の悪化、燃油高騰の長期化によるコスト増による経営の悪化、生産・流通の悪化など衰退に歯止めがかかっていない。そこで、これらに対応するため関係予算を拡充し、衰退に歯止めをかける。

4.地方活性化関係予算

  地方が自らの実情に合った事業を独自の財源だけで行うことは昨今の経済状況から見ても難しい状況にある。「日本再生のカギは地方経済にあり」との観点に立って十分な資金を確保し、地方の活性化を大胆に推進する

 「地域自主戦略交付金」(約6,750億円)については、各省が持っていた補助金を一部移動させただけであり、また、自治体が内閣府と各省双方に相談せざるを得ず、使い勝手がかえって悪いものとなっている。さらに、その積算基準が曖昧であり、自治体にとって不安定な交付金でもあり、即刻、廃止すべきである。

 他方、地方自治体が特色ある政策を着実に実施できるよう、経済対策や雇用創出事業に活用できる「地域経済対策特別交付金」、「地域雇用創出緊急交付金」を創設し、地域からの日本経済再生の支援を行う。

 また、地方がその実情に合った事業を積極的に行うに必要な地方交付税の総額を確実に確保すべきである。 

5.国土づくり関係予算

  国土強靭化に関する基本的な考え方については前項において詳述した。ここでは、具体的に「国土強靭化元年」として平成24年度予算における対応について触れていく。

 地方経済は、公共事業に負うところが多いが、公共事業費は、政権交代以降、平成21年度当初予算と比較して、約2.3兆円、32%もの削減が行われた。

 この結果、防災対策をはじめとする社会資本整備に重大な支障が生じ、東日本大震災や各種自然災害への対応力の脆弱さが露呈した。さらに、地域経済や災害時の応急・緊急対応の役割を担っている地方建設業の経営も圧迫、「地方の危機管理」が限界にきている現状もある。

 そこで我々は、これまでの「ハコモノ行政」の反省に立ち、国土強靭化元年に相応しい内容とするため、“真に必要”な公共事業を緊急に行う観点から、政府案、約4.6兆円から増額し、約8.3兆円を確保すべきであると考える。その内、「事前復興」の考え方に基づき、近い将来に発生が予測されている大震災等の被害を最小限に抑えるため、早急に実施すべき事業として約3兆円を東日本大震災復興特別会計に計上する。 

6.社会保障関係予算

  年金・医療・介護は世代を超えた国民生活の基盤であり、社会保障制度の崩壊は国民生活の崩壊につながる。今こそ、前述したように、高齢化の進展等に対応し、自助・自立を基本に安心できる社会保障制度の構築を目指すべきである。

 基礎年金国庫負担割合の2分の1への引き上げは当然の前提とし、その財源については、前述したように、交付国債の発行による年金積立金の取崩しによるのではなく、一般会計予算において必要な予算を確保する。

 さらに、前述の生活保護費の抑制に加え、「子どもに対する手当」に関して、三党合意に即して名称を「児童のための手当」と変更するとともに、年収960万円以上の世帯への支給(1人当たり5,000円)は行わないこととする。なお、年少扶養控除については今後、さらに議論を深めていくこととする。

 雇用政策においては、失業率は5%を下回る水準で推移しているものの、デフレに加え急激な円高などの影響による産業・雇用の空洞化が懸念され、きめ細かな対応が不可欠である。

 特に、ハローワークのマンパワーの拡充・強化とマンツーマンの個別・総合的支援体制の確立などにより、新規学卒者など若年者の就労支援や女性・高齢者の再就職のための支援体制を強化する。

 また、職業訓練のオーダーメイド化、職能別検定制度の充実、ジョブカードの円滑な活用など職業訓練体制の整備を行うとともに、非正規労働者の公正な待遇の確保、フリーター・ニートへの就労支援、職業意識を醸成する教育の推進、中小企業労働者・下請労働者の雇用の安定と待遇改善などを進める。 

7.人材育成関係予算

  教育の目的は、わが国の次代を担う人材を育てることである。改正教育基本法の理念を実現するために、わが党政権下で、初めて「教育振興基本計画」が策定されたが、民主党政権は、高校授業料無償化の財源に充てるため、基本計画関連の予算を軒並み削減した。

 まずは、三党合意に基づき、高校授業料無償化については、検証の下、所得制限を設けるとともに、低所得者への給付型奨学金(約1,000億円)の創設や公私間格差の是正を早急に行うべきである。

 また、政府は、一昨年の概算要求において義務教育費国庫負担金を10%削減し、必要な予算を確保することができなくなったため、「小学生1・2年生の35人学級」を打ち出したが、現状は1学級平均27.9人となっており、35人学級とする合理性や必要性はないと考える。義務教育に関わる予算よりも高校授業料無償化の財源確保を優先するための口実であり、党利党略の施策であると指摘せざるを得ない。

 昨年、わが党主導で改正した教職員の定数を定める法律(義務標準法)に基づき柔軟に配置できる教員(加配教員)を活用して、小学校の専科教員配置や特別支援教育での特別指導などきめ細かい対応を行うべきである。さらに、東日本大震災を受けて、学校耐震化・防災拠点化の要望が3,350億円にも上っており、予算の確実な措置が必要である。

 また、科学技術やスポーツ、文化・芸術分野については、中・長期的に安定した予算の確保が必要である。特に、わが国の成長や復興の原動力となる科学技術については、重点的な投資が必要である。 

8.外交・防衛関係予算

  政権交代後、わが国の外交力が著しく落ち込んでいる。北方領土、竹島、尖閣諸島等をめぐる問題や沖縄普天間基地問題、さらにはTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)問題への対応のまずさは、国益を棄損し、日本のプレゼンス低下に直結する由々しき問題である。

 外交力を抜本的に高めていくため、大使館体制と人員の強化など、外交基盤の整備を強力に推進する。特に、南スーダンへのPKO派遣については武器使用基準の緩和を検討するとともに、在南スーダンの大使館を早急に開設すべきである。

 外交ツールとして極めて有効であるODAについては、戦略的実施に向け、プロジェクトの内容など実施体制を見直す。

 また、国を守る観点から、予算・人員削減が明記された「防衛大綱」「中期防」を新たに策定し直す。特に、大震災への対応を見ても人員・装備などの整備は今後も必要である。これ以上の防衛予算の縮減に歯止めをかけるとともに、震災で被害を受けたF-2戦闘機の修復などのためには、約800億円の増額を行う必要がある。

 さらに近年、サイバーテロの脅威が静かに、しかし、着実に増している。米国はサイバー空間を「第五の戦場」と位置付け、その対応の強化を行っている。わが国においても、サイバーテロへの対応を含めサイバーセキュリティーの対策強化を早急に進める。 

〔平成24年度予算見直しの全体像〕

 以上述べてきた通り、我々の粗々な試算によっても、地域活性化策や農業分野など真に必要な分野については重点的に予算を上乗せする一方、高校授業料無償化などの民主党のマニフェスト関連経費の見直し、公務員人件費の削減、生活保護費の抑制等によって、予算全体では1.1兆円程度の削減が可能である。

 わが党は、将来への投資に大胆に取り組むとともに、持続可能な財政の確立にも責任を持って対応していく。

 基礎年金国庫負担割合2分の1への引き上げの財源について、予算編成の当初、安住財務大臣は歳出削減による対応を基本とする旨を国会で答弁していた。しかし、結局はその全額を交付国債の発行で賄うという実に安易かつ粉飾的手法を選択した。我々は、正直に真実を語るとの立場から、既に述べたように赤字国債で対応すべきであると考える。

 その上で、わが党の提案する経済成長戦略の実施や大胆な金融緩和策の断行によりデフレから早期に脱却する。その結果、景気回復と税収増を図り、赤字国債の発行額をさらに削減する。